自閉症を育てている親御さんや支援者の方は、本を読んだり情報を集めて自閉症の特徴については分かったけど、対処法は人それぞれに違い、悩まれている方が多いと思います。私もいまだにそうです。
私もたくさん本を読みましたが、上手くいかないことの方が多く試行錯誤をしてきました。それだけ自閉症の子育ては難しい。
今回ご紹介させていただく本は、娘がまだ幼いころに読んで、参考になることが多かった本です。この本のおかげで、自閉症だからとあきらめることもなく、叱責することもこともなくなり、今まで過ごすことができたと感謝しています。
障害の重い子の話が多く、何か具体的はアドバイスが欲しいという方にぜひお勧めしたい本です。
- 自閉症の人と40年以上関わった臨床経験を基に書かれている
- 障害の重いお子さんのことが多く書かれている
- 具体的なアドバイスが書かれている
- 育てておきたい力が紹介されている
- 言い切り表現が多いので当てはまらない方もいると思う
- 講演内容を本にまとめた物なので読みやすい
- 支援者の方にも何かヒントになる本だと思います
本書について
今回は 篁 一誠(たかむら いっせい)先生の本を2冊紹介します。2冊とも大体同じ内容が書かれています。私は2冊とも読んでいるので両方から引用させていただきました。
人間力を育てるの方を「人間力」
自立への力を育てるの方を「自立」として引用します。
本 | 講演 | 引用表現 |
---|---|---|
自閉症の人の 人間力を育てる | 2009年発行 2003年に行われた講演 問題行動をどう受け止めるか 講演録をまとめたもの | 人間力 |
自閉症の人の 自立への力を育てる | 2013年発行 2010年に行われた講演 自閉症の人のライフステージによる支援 全7回をまとめたもの | 自立 |
著者について
著者である 篁先生は、1967年から40年以上 自閉症の方たちを支援してこられた方です。ABA(応用行動分析学)を基に考えられたものと推測できます(書いてないけど)。
病院だけの関わりだけではなく、1982年から自閉症の人たちとボランティアで夏休みのキャンプに参加し、1997年からは成人の入所施設に入り、毎日の生活に関わる中で、自閉症の人をより詳しく知ることができたとおっしゃっています。
自閉症の人の生活に毎日関わることで、気象や天候と自閉症の人の生活の関係を知ることができ、新しい視点を得ることができました。彼らの身体的な感覚の鋭さ、周囲の情報の集め方、反応の仕方を改めて学びました。彼らの生理的な特徴にも気付くことができ、体温調節の独特さ、偏食といわれる食事の意味なども考えるようになりました。
医療での仕事で得た知識の10倍以上のことを、10年間の福祉の現場で得ることができたと思っています。フィールドワークの重要性を感じ、生活を共にすることの大切さを感じました。
引用:自立 序章p13
生活をしないと分からないことは多い。
本当にその通りです。
先生の家族の方に対する思いが分かる言葉があります。
今の日本では、ご家族以外は全て通行人で、ある時期だけ関わったら離れていってしまい、伴走する人ではないのです。あまりにも細切れな関わり方で、一貫性のない関わり方が多いと思います。自分が関わることで蒔いた種がどのように花を咲かせ、実ったかを確認する人があまりにも少ないと思います。無責任ではないかと感じることもあります。
私は伴走者として一人の人の成長を、同じ視点から見守る支援を続けていきたいと思っています。このような関りを私は<定点観測>と呼んでいます。
引用:自立 序章p11
そうなんですよね。
一貫性ない関わり方、これが子供を傷つける
100人いたら100通りの支援を
言い切り表現が多い本なので、きっと当てはまらない人、上手くいかない人がいると思います。
私は自閉症について全てを理解することは今もできていません。私ができるのは一人ひとりの人の理解です。その中から、どこかで自閉症の共通した特徴に到達できたらいいなと思っています。
お話したことも私の経験の中から出てきたものです。当てはまらない人もたくさんいるだろうと思います。私がお話したことを、ぜひ皆さんに検証していただきたい。違っていたら、ぜひ教えていただきたい。付け加えられるものがあったら、ぜひ教えていただきたい。共通理解というのは、そうやって始まっていくのだと思います。
引用:自立 1章p44
100人の自閉症の人がいれば、100通りの関わり方が求められると思います。一人ひとりの特性に応じた支援が必要です。定点観測をすることによって、これが可能になると思います。観察して記録に残すこと、気象や天候など、生活の中にある様々な刺激や条件に配慮することが定点観測には求められます。
引用:自立 終章p182
問題行動について
自閉症の問題行動とは こだわり 自傷 パニック 常同行動 偏食 睡眠障害などがあります。問題行動の定義を「援助者」が対応に困難さや戸惑いを感じる行動と呼ぼうと定義されています。
問題行動の意味と関わるポイント、背景について抜粋していきます。
こだわり
こだわりについては、彼らにとって「解決策」「精神安定剤」と書かれています。
自閉症の人は不安や緊張が強い人であるため、落ち着くための行動が必要。
エピソードとして、ドアの前でクルっと回転しないと中に入れない高機能のお子さんの話が紹介されています。大きくなるとそれがなくなり、やらなくなったのは理由を聞かれると「頭の中では1回転させている」と答えたそうです。彼女にはそれが安心できる方法だったということですね。
昔、療育の先生から「こだわり崩し、やってないのですか?」と言われたことがありましたが、
①人に迷惑になるもの ②命の危険のないもの
以外のこだわりは止めていません。安心したいための行動を止めることはしたくありませんでした。
またhakuの場合、小さいときは儀式的なこだわりが多かったですが、小学生くらいになると1年くらいでマイブームのように、こだわりが移り変わっていくと分かったので、いずれ終わると思っていたのもあります。
パニック
パニックは「もうこれ以上、関わらないでください」というサインなのかも。
そして自閉症の人のパニックは「パニック障害」のパニックとは違い、パニックの最中は頭が真っ白になっていない。激しい行動を起こしながらも周りの人を見ていて全て覚えているという特徴があると書かれています。どこか冷静さを持っていて、おさまる時は一瞬でおさまるということがある。
hakuも小学校低学年まで癇癪とパニックがありました。確かに切り替えが一瞬という場面は何度もありました。そう考えると「パニック」という言葉はふさわしくないのかも知れませんね。
睡眠障害
感覚が優れているため、体温・気圧・天気・台風・気温・満月の影響で睡眠障害になる。
当てはまったのは体温の説明のところです。厳密には体温以外にも、多動・感覚過敏・場面の切り替えの弱さもあったと思います。
自閉症の人たちの体温を計っていきますと、朝起床時の体温は35度台です。今まで一番低い体温が34.4度という報告を受けています。(略)こういう人たちが夕方から夜、特に就寝前の体温を測ると36度から37度台です。非常に高くなってきます。
熱があるとお風呂に入れられませんから、検温をします。36.8度微熱がある、そうするとお風呂に入れないという施設もあります。(略)
体温が上がりすぎると、寝つけなくなります。また、湯冷めをしないように、お風呂に入ってすぐ布団に入るとポカポカしてきて、布団の中が温まってきますと、やはりなかなか寝られません。
かと思うと、夏でも厚い布団をかけて、汗びっしょりになって寝ている人もいます。
引用:人間力1章p33
体温調整が難しくて、睡眠障害になっている人もいるということですね。自閉症は脳の機能障害ですから、そういうこともあり得ると思いました。
hakuもコロナになってから、朝晩の体温を測り学校に提出するようになりました。朝の体温は34度台で低すぎてエラーになることも多く、夕方は36度後半という数字だったのです。本では、対策も紹介されていました。(自立p28人間力p35)
体温調節ができない理由として、汗をかかないということが説明されています。汗をかけないから、体温が下がらない。その通りですね。
娘も汗をかかない子です。そして支援学校の子も運動後や夏に「暑い!」と言って号泣している子や、冷たい床に寝転がって体温を下げている子を見ていました。きっと同じく体温調節が難しい子たちなんだろうと思っていました。
偏食
自閉症の人は、色んな味が混ざるのが受け入れられなく、丼ぶりなどは上の具を全部食べてからでないと食べられないと書かれています。
偏食の解決策としては、後で紹介する「10歳の夏休みから10年計画で家事ができる人になる」で、自分で調理をすることで、改善されていく人達がいるそうです。
私が聞いたのは、環境の変化です。極端な偏食の人でも家族との旅行や入院・施設入所など、環境が変わる経験をすると食べられるという話です。hakuも極端な偏食だったのですが、入院後に偏食が改善しました。
偏食指導の問題点
偏食があると保健士さんや園の先生が心配されて、色々と言われると思います。じゃ無理矢理食べさせるのが正解なのかというと、それはダメだということ。
ある幼児の通園施設で徹底的な偏食指導をしているところがあります。子供さんを仰向けに寝かせて鼻をつまんで口を開けて給食を無理やり入れます。子供さんが拒否して吐き出すと「あなたの口から出したんだから、もう一度食べなさい」と言って、もう一度口の中に入れます。
では、そこを卒園した人たちが20年後、30年後に、どういう生活をしているかということを調べてみますと、非常に皮肉な結果になっています。ほどんとの人が太ってしまって、体重100キロを超えるようになり、糖尿病と高血圧、成人病を抱えています。
その人達の食生活を見ていきますと、どんな食事でも3分あれば終わってしまいます。噛まずに飲み込む食べ方をします。
引用:人間力1章P18
こういう話は他の本でも読んだことがあります。
偏食指導の結果、大人になって、丸のみして噛まないで食べる、味わうことなく食べる、ご飯一粒も残してはいけないと指導されたので、お皿を綺麗にするまで食べ終われない、食べたくなくても泣きながら食べる、5分以内に食べ終わる等 施設の職員さんの話でしたが、こんな指導をした人たちに怒りを感じますと書いてあったと思います。偏食指導の結果、食べることへの残念なこだわりが身に付いてしまったのです。
学校の先生も「お母さんで給食を絶対に残さず食べさせてくださいって言う人がいて、本人は嫌々食べてるんですよ」と聞いたこともあります。
親としては偏食は心配ですよね。でも、先生はそんなに心配しなくて大丈夫で、その理由も書かれていました。(自立p30人間力p19)
自傷
落ち着こうとしてやっている行動
自傷行為をしている間は痛みを感じていなく、逆にその場所を人が少し強めに触ってあげると痛みを感じるということが書かれていました(人間力p45)
自傷行為に限らず、問題行動はどこかに理由があるという考えで、実際に自傷行為を解決した話が載っています(自立p23p42p84)
問題行動に関わるポイント
問題行動の根本的な解決は「主観ではない観察」が大事と何度も色々な箇所に書かれています。
問題行動に関わるポイントとして
- 体温を下げてあげる(保冷剤・熱冷まし・扇子)
- 刺激を少なくしてあげる
- 毅然とした態度で対応する
- 有効な言葉のかけ方
- 安心させてあげる
「毅然とした態度」というのは
①こちらの気持ちが不安定なときには働きかけをしない
②前かがみの姿勢にならないように
③姿勢は関わるときの大事な要素
あとは距離感を上手に保つことも書かれていました。
毅然とした態度は、怖い顔をすることではなく
こちらの感情が揺れている時は言葉にしないこと・合図をしないこと、これが毅然とした態度だと思います。むしろその時は笑顔で安心感を与えてあげる姿勢・表情があればいいと思います。
引用:人間力2章P51
問題行動の背景にあるもの
- 不安を上手く表現できない
- 意思の疎通が上手くいかない
- 退屈ですることがない
- 痛いところがある
痛いところは、見過ごされることがある
痛いところで見過ごされやすいのは、歯の痛みと書かれています。
- 支援学校では不調の原因が、便秘・体調不良・睡眠不足などがあると聞いたことがあります。
- また以前テレビで、散歩の時間に他害をするようになった原因が、膝の痛みだったという人も。
- 衣替えの時期の6月と10月も不調になると書かれています。(人間力p31)
自閉症の人は痛みや不調を訴えることが難しいですし、それが表情や態度に出ない人も多いです。
hakuも話はできますが、痛いと訴えた先の対処法までがつながっていない(見通しが分からない)ため、一人で我慢していて、後から「お腹痛かった」と報告してくることもあります。この辺りをどう教えていくかが今の課題です。
自閉症の人に育てたい力
将来に向けて育てたい力が3つ書かれています。
先生は高校までの12年間で自閉症の人の教育が完了するはずがなく、そのため家庭での教育を可能にしておく必要性を伝えています。その理由としては
- 1週間に1回の療育では不十分
- 療育でできたことを家庭や外でもできるように
- 家でできることで<生活の基盤づくり>につながる
- 将来、在宅だけになった場合の家事労働につながる
人間力の本では育てたい力を3つ紹介されています。
1)模倣する力
小さい時から模倣する力が必要。
療育でマッチングなどの模倣をやることがあると思いますが、本では初期模倣のやり方が自立の方の本に詳しく紹介されています。(自立p64)
- 「同じ」という言葉を使う
- 決して叱る言葉・禁止する言葉を使わない
- 目と手を使ってやらせることが大切
本にはプロンプトの方法などは書かれていませんでした。
私はhakuが小さいときは井上先生の本を読んで模倣練習をしました。ABAの本で、内容は個別のSTやOTに近い感じです。プロンプトの方法も書かれていておすすめです。
2)人からものを教わる姿勢
自閉症の人は好きなことには独学で学んでいける人です。そのため人から教わるという力を身に付けるのが難しい人たちでもあります。
しかし好きなことばかりでは生きていけないのが人間です。模倣の弱さもある自閉症の人にどうやって人から教わる力を身につけさせることができるのでしょうか。幼児期のところに書かれていたものですが、これは大きくなっても大事なポイントだと思っています。
- 今までやったことがないことをやる
- 教える時は向かい合って
- 座る場所の注意、最初は2.3分から
- 一緒にやりたいと思ってくれるまでデモンストレーションを続ける
- 1回2回で子供の能力を見限らない
- 変化と不変の割合を調節しながら行う→こだわり防止のため
成長して10歳になったら「10歳の夏休みから10年計画で家事ができる人になる」という家事スキルを家で教えていくことで、人からものを教わる基礎になることが書かれています。
お子さんの反応がないと「ああ、やっぱりだめかな、無理かな」とチャンスを奪ってしまいます。こういうふうに途中でチャンスが与えられなくなることが繰り返されると、自閉症の人たちは洞察力のすごい人たちですから、周りの人が新しい事を要求してきたら2日も「ちゃらんぽらん」にやっていると相手が諦めるということを学んでしまいます。彼らの方が先を読んでいるのです。ですから私たちは根気よく彼らにチャンスを与え続けるのです。
引用:人間力11章p162
3)意欲を育てる
意欲を育てるにはどうすればいいのか。
①褒め続ける
褒める→満足感→自信→意欲
たくさん褒められることによって、満足感が生まれます。そしてこの満足感が繰り返されて、自信ができて、意欲になるわけです。ただ厄介なのは彼らは褒めても嬉しそうな顔をしてくれないことです。こちらの一人芝居になってしまう。これが辛い。それで多くの人が褒めるのをやめてしまう。しかし彼らはきちんと聞いています。私たちが褒め続けていけるかどうかがポイントだと思います。
引用:自立1章p40
そうなんですよね~。無反応・無表情なんですよ。
母親なんか存在しないような反応。ホント辛い。
日本人は褒めるのが苦手です。私自身も褒められて育っていない昭和な人です。
褒める=励ます・受け入れる
と定義して、私たちの合図に応じてくれた時は必ず受け入れる言葉・態度を見せようと書かれています。
聴覚過敏のあるhakuを褒める話
娘の場合、聴覚過敏があるので昔から「オーバーに褒められる」のが苦手です。それが分かってからは
・行動を「認める」に変えました。
・できたら→「できたね」
・履けたら→「履けたね」
・片付けたら→「片付けたね」
・できなくても→「頑張ったね」
こんな淡々とした言葉でも、娘もはコクコクとうなずいて満足な顔をしてくれます。これなら私も頑張らずに長く褒め続けることができると気が付きました。
やる気を失う言葉
「できるかな?」「やればできるじゃん」
こういう言葉はやる気を失うから気をつけてと書かれていました。
②笑顔と演技力
褒めるのが難しい人は「笑顔で接する」そして「演技力」が必要。
お母さんの迷っている表情は「マイナス情報」となるため、やろうとしないと書かれています。
まずニコニコしていよう、そうやって、心の中の動揺や迷いを表情に出さないようにしました。<演技力>ということを考えだしたのも、このころです。
引用:自立2章p56
<あなたはできる人だ>と信じてあげること、それをどう伝えていくかということが大事です。困ったなとか、また今日もやってくれない、どうしようという気持ちで関わるときは、お子さんは絶対に真似をしません。(略)隠そうとしても、どこかで子どもさんに感じ取られていると思ってください。ですから、まず表情をどうするか、この演技力が必要ということです。
引用:人間力p67
支援学校のお母さんも言っていましたが、子供たちは親の気持ちに敏感で、見ていないようで見ていて、気にしていないようで気にしている。だから辛いことがあっても笑顔で出迎える。hakuも同じです。私がイライラ・ハラハラ・ドキドキしていると時間差で影響を受けるのです。「演技力」って言葉は辛いけど、確かにそうだよねと思っています。
③周囲の評価内で頑張る
例えば「10の力」がある人に、職員が3しかできないと思って3の仕事をやるように要求した場合、彼らは3までしかやらない。ところが職員が変わって7できるだろうと思って7の仕事をやるように要求すると7の仕事をやってのける。相手が期待している範囲でしかやらないということです。
自閉症の人は、自分を誇示する、ひけらかす、あるいは相手を蹴落とすということを絶対にしません。彼らは周りの人がどんな評価をしているかを感じてその評価内で頑張るのです。
引用:自立1章p21
どれくらいできる人なのか、先にこちら側が決めつけないことが大事ですね。
④受け入れる時間を与える
してほしいことを伝えるということは、彼らがそれを頭の中で整理して受け入れて実行するまでの時間を保証してあげることです。それが「働きかけ」というものだと思います。特に学齢期はこれが大事です。待ってあげないと彼らのプライドが傷ついてしまう。あるいはこの人は自分を見下していると思ったら、彼らは動こうとしません。
引用:自立3章p97
自閉症の人は完璧主義でプライドが高い人が多い。
そう聞くと嫌いになりそうですが、それだけ自己肯定感が低い人たちなのだ思います。
⑤予告と見通し
自閉症の人は見通しが立たないと、新しいことを受け入れない。それなのにやらせるからパニックを起こしてしまう。分からないと絶対に動かない。中途半端にやることも嫌う。予告なしの活動は苦手と書かれています。
この活動が
・何時に終わるのか
・どこまでやったら終わるのか
・どうゆう状況が終わりなのか
彼らが納得いく形で情報を伝えれば、受け入れるのに時間はかかるけど、やってくれる。
確かにhakuも受け入れるのに時間がかかる時があります。「納得のいく形」が難しいのですが、情報を簡単にしたり、逆に増やしたりして視覚支援を工夫をすると最終的にはやってくれることがほとんどです。
そして先生は「絵カードではなく実物を」という考えのようです。支援学校では絵カードによる視覚支援が多いです。私は実物から絵カードに慣れておくことが必要だと思います。
⑥失敗する権利
自閉症の人は記憶力がとてもいいです。悪い記憶を鮮明に思い出せる人もいるそうです。以前した失敗ことはやりたがらない。ではどうしたらいいのか?
次の引用は、失敗の話ではないですが、失敗経験とも通じると思います。
子どもさんが不快な経験をしてしまったときは、そっとしておくことは決してプラスにはならない。なるべく間隔をあけないでもう一度挑戦して、いい経験にしてあげてください(略)
尻込みするとき、嫌がるから止めようと考えると、彼らの行動範囲を狭めてしまうことになります。
引用:自立2章p54
実際に再度挑戦させるかは状況にもよるので、やるかどうかは別としても、こういう考え方は大事だと思います。
hakuも失敗したからやりたくないは沢山ありますが、意外と後日やらせてみるとできたり、数年後にできたということもあったので、私自身はその内できるかもと思っています。でも本人は失敗だと思っては次回にやりたくないとなるので、できそうなものをやらせたり、最後は必ずできるもので気分よく終わったりと工夫はしました。
・自閉症の人は完璧主義者
・失敗した自分に腹を立てて癇癪を起す
・失敗を修復する時間を与える
・彼らを信じて失敗から学ばせる
引用:自立5章p145
⑦提案しない
新しいことをやってもらうとき、語尾に「~か?」と聞くと、反射的に「イヤやらない」と答えるという学習をしている人がいる。「これをやりますか?→やらない」となる。ですから
やりますか?→どちらをやりますか?「選んでください」「選びます」
選ばないという選択肢はないと伝えることが大事。
言葉に気を付けないといけないですね
10歳の夏休みから10年計画で家事ができる人に
家事を教えるのは大変ですが、家事ができることで学べることがあります。将来どれも役に立つ力だと思います。
- 模倣する練習
- 人からものを教わる力
- 最後までやり通す力
- 物事には手順とルールがあると知る
- 生活スキルが上がる
- 失敗を経験できる
- 偏食が改善する
本では、夏休み前の予告から1日の流れまでが紹介されています。(自立p106人間力p142)
そしてもうひとつの理由は、自閉症の人は引きこもりや不登校になるケースです。在宅になったときに、家事労働が家での役割り「居場所づくり」につながるとのことです。
支援級から高校は支援学校に入り不登校になったHさん
Hさんは不登校になり登校しない代わりに家事を担うように。3年間、学校の時間の15時までは外に出ずに家事をして、3時以降にブックオフやマックに行っていた。卒業したとき「僕は家事があったから、3年間家にいることができた。家では役割を担えて家族の一員として評価された。家事をしなかったら、僕はどうしていたか分からない」と言ったそうです。
発語のない最重度のこうじさん
こうじさんのお母さんに先生が提案した時お母さんは一番反対した人でした。しかし今お母さんは「先生、私はこうじに看取ってもらおうと思っています。この子がそばにいてくれたら私は安心して死ねます」こういう言い方をされたのです。それくらい完璧にこうじさんは家事をこなすそうです。
自閉症の人が餓死した報道
お父さんが脳溢血で亡くなられ、お父さんの遺体のそばで自閉症の女性が餓死した状態で発見されたそうです。冷蔵庫には食べ物が入っていたそうですが、その方は自分で食事が作れなかった。先生が家事ができる人にというのはここから始まったそうです。
自閉症の人と言葉
内言語は育っている
先生は、自閉症の人は話せなくても「内言語は育っている」と考えています。内言語は頭の中で考えたり、気持ちを整理する言葉で、声や文字となって外に現れない言語です。
言葉がないから「理解力がない・判断力がない」というわけではない。むしろ彼らの内的世界は非常に豊かなものを持っています。
ある4歳のお子さんの例です。彼は言葉を持っていません。ご両親が休みの前日「明日はどこへ行こうか」と相談していたら、お子さんが寝ている隣の部屋でゴソゴソと音がする。なんだろうとのぞいてみたら、リュックと水筒が出してあった。お母さんは「こんな小さい声まで聞こえているのだとうか?」と驚いたそうです。
私は、彼が、ご両親が話している言葉の中身をちゃんと理解していることに驚きました。(略)こういうところに、彼らがきちんと内言語をもっていることが現れていると思います。(略)
私たちが「分からないだろう」と思って使っている言葉が、彼らには分かっていることがあるのです。あなどってはいけません。
引用:自立2章p51
まだhakuが単語しか話せなかった頃、話を聞き取れない・聞こえても分かっていないと思い込んでいた私は、夫にその日の出来事を話していました。すると娘は突然「悲しい」と言ったのです。娘を悪く言ったつもりはなかったのですが、話が分かっていると気付いた瞬間でした。そう考えると今まで言葉がなかった時期も本当は聞こえていたのかも知れません。
知らずに傷つけていたのかも知れません
単語だけの言葉の意味
ほとんどの自閉症の人が言葉が出てきても「単語」しか使わないことがある。
単語だけのやり取りで一番誤解されるのが食べ物の名前の時です。そのエピソードとして、こだわりが強い小1のDさんのことが紹介されています。
Dさんが夏休みバスの中で初めて「ポテト」と言う。お母さんは「今日は買わないよ」と返事。それからDさんは急に「ポテト」と連呼するようになったそうです。先生は「ポテト買ってちょうだい」の意味だけではなく、他の意味も考えてみませんか?と提案。お母さんはDさんが「ポテト」と言った後に色々な答え方をしてみる。すると時々はずれたけど連呼はしなくなったそうなのです。
これは大事なところではないでしょうか?
食べ物=食べたい お出かけの場所=行きたい 必ずしもそうではない。
「こないだ美味しかったねぇ」かも知れないし、「お父さんも行くの?」かも知れません。
オーム返しの意味
オーム返しは「分かりません。教えてください」の意味だと思うと書かれています。
1)意味が分からないけど、何か答えなければいけないとき
2)意味は分かるけど、答え方がわからないとき (人間力p109)
先生が「誰と来たの?」の誰との部分が分からないからオーム返しをする。その都度「お母さんと来たね」と答え方を教えてあげると「誰と来たの?ーお母さん」と返事ができるようになります。
オーム返しもそうですが、遅延エコラリアはどうなんでしょう
すごく分かりやすいくて、参考になる記事を見つけました。
出典:澄川綾乃のことばカンタン家庭療育 オウム返し・エコラリアとは?
伝わらない言葉・不安になる言葉
自閉症の人は抽象的な表現や比喩的な表現が分かりにくいと言われています。
そして伝わらない言葉として、よく使う言葉に
【伝わらない言葉】
よく見て/よく聞いて/きれいに/きちんと/早く/ちょっと待って
- 見ると聞くは分かるけど「よく」が分からない。
- きれいときちんとは、人によって基準が違う。
- 早くやちょっとは、どれくらいかが分からない。
【不安になる言葉】
1)運動会/発表会/マラソン大会/バザー/予防接種/健康診断
2)わからない/行かない
3)ダメ/いけません/何してるの/勝手にしなさい/知らないからねetc
1)行事
「運動会」は大人になってもその言葉を聞いただけでパニックになる人がいると書かれています。それだけ辛かったということですよね。
2)わかわない/行かない
子供に前もって予定を伝えるとパニックになったという話が紹介されていました。なぜ予定を伝えてパニックになるのでしょうか?
母:8月の第1土曜日ディズニーランドに行きます
子:ディズニーランド?
母:そうだね。8月の第1土曜日に行こうね
子:ディズニーランド?
母:今日は行かないよ。うるさいわね。
行かないって言ってますね。
先程の「単語だけの言葉の意味」でも書かれていましたが、子の「ディズニーランド?」には色んな意味があったのかも知れません。誰とディズニーランド行くの?雨降っても行くの?とか、日にちだけの情報では不十分だったのかも知れないですし、ディズニーランド楽しみだね♪の共感の意味だったのかも知れません。想像力が必要です。
3)禁止や制止、否定の言葉
禁止や制止、否定の言葉では何をすればいいのかが分からないと書かれています。
声掛けは「小さい声で・短く・肯定形で」
10年以上かけて先生は「小さい声で・短く・肯定形で」にたどり着いたと書かれています。
①小さい声で:子どもの方から、こちらに注意を向けるようになる。周りに気付くようになる。
②短く:言葉と動作が結びつくように伝えていくための工夫。
③肯定形で:禁止や制止、否定する言葉では、具体的にどうしたらいいか分からない。通じていない。
「そっちに行ってはダメ」→止まってください。戻りましょう。一緒に行きます。
言葉と動作を結び付けて、言葉を覚えさせていくというのは、その通りだと思います。
「言葉をたくさんかけなさい」がもたらしたもの
引用:人間力7章p110
たくさん言葉をかけて言葉が伸びたという報告は、ほとんどありません。むしろ現実には、彼らの中で言葉に対して反応しなくなっていくということが見られます。
特に聴覚過敏のhakuには「たくさん話しかけられる」は不快だったようです
短く:言葉と動作を結び付けていく
言葉と動作を結び付けることで、子ども自身が自分で自分にブレーキをかけられるようになっていく。
テーブルに登る→「降りて」 ハサミを振り回す→(箱に)「しまいます」 走る→「歩きます」
叱るのは基準を
自閉症の人は一貫性のない人を嫌うと書かれています。叱るにしても基準があった方が混乱しないのだと思います。
私たちは、その日の気分や体調次第て叱っていて一定ではない。
①生命の危険を招くこと
②人に迷惑をかけること
この2つはきちんと叱ると書かれています。
文字を識別できている
2歳半から3歳までの間に文字の識別ができている人が半数以上います。ただ、この時期にそれを言葉で表現する人は大変少ないものですから、彼らが文字の識別ができているということに、周りの人たちはほとんど気付いていません。
引用:人間力5章p84
半数以上いるかは分からないですが、文字が分かっているという話は聞きます。
重度と言われ言葉がなかった男の子も、ブロックで「ニトリ」と作ったりして、就学後も文字が書けるようになったと聞いています。hakuも文字に興味があって幼児用のドリルをやらせてみると、すごい集中力で1年くらいでひらがなとカタカナが書けるようになりました。今でも大事な話は文字に書いて見せながら説明しています。
自閉症の人は聴覚よりも視覚優位なため、文字に興味があれば教えてみるといいと思います。文字でなくても絵カードを使ったコミュニケーションなど、何か自分の気持ちを表出するものを育てておいた方がいいと思います。
本によるとカタカナから教えるのがいいそうです。直線だから書きやすいですよね。今ならタブレットもありますから、そういう物を使ってもいいと思います。文字を書く教え方、文章を作るポイントが書かれていました。(人間力p129)
自閉症の人が苦手な聴覚を使った言語訓練よりも、文字で言葉を覚えてコミュニケーションをとっている人の方が穏やかに過ごしていると書かれています。(人間力p125)
書き言葉
日本語には話し言葉と書き言葉があります。
話し言葉はやわらかい表現だったり、省略が多く自閉症の人には分かりづらい。ですが、書き言葉はある程度の型がありますから、文字を学んだ自閉症の人が文章を覚えれば、書き言葉で話すことができる。
私はあえて「書き言葉を学齢期から丁寧に教えていく必要がある」と言ってきました。
引用:自立5章p135
支援学校の子もhakuも書き言葉で話します。堅苦しいとか、距離を感じてさびしいと思う人もいるかも知れません。しかし、大人になった時に丁寧な話し方をする人となり、正確に自分の気持ちを伝えられますし、周りから誤解されることも少ない方法だと思います。
過去形の表現
学校で日記や作文を書くときは過去形で書きます。それをそのまま未来の表現にも使ってしまう。そういう表現の仕方も教えていく工夫が必要です。
中1のGさんは先生に「ディズニーランド行ったね」と言う。先生が「ディズニーランドに行ってきたんだね」と言うとGさん「ディズニーランド行ったね」と。しばらくしてもしかしてと思い「いつ行くの?」と聞くと、「夏休み」と答えたそうです。
単語だけの言葉の意味のところでも書きましたが、やはり何度も同じことを言う時は、意味が違う場合がありますよね。hakuもそうです。
そして未来形や現在形の言い方も教える。。。。
我慢の言葉と感情のコントロール
自分の感情をコントロールする言葉を育てていくことが必要。好きなものを使った我慢の練習が書かれています。
言葉としては
我慢できたね/残念だったね/また今度 など
hakuも「残念だったね」や「大丈夫だよ」と言って自分の感情をコントロールしている様子が見られます。
他にも、自分なりの方法で感情をコントロールしている人がいる。
・メールで打つことでクールダウンしている人
・独り言で感情を抑えている人
・決まったフレーズで落ち着けようとしている人
相手に止めてもらって終わるというパターンが定着している人が意外と多いのです。パニックを使って周りの人の働きかけで気持ちをコントロールすることを学んでしまった人は、いつまでたってもパニックの形から抜け出せません。
引用:自立5章p137
人を見る目をもっている
自閉症の人の<人との関わり方>で見逃してはいけないのは、彼らの人の気持ちの見抜き方です。基本的には無関心というか、知らん顔をしているように見える人たちですが、常に相手のお腹の中を見抜いています。(略)
私の気持ちが揺れ動いているとき、自信がないとき、不安なとき、彼らは私の<合図>に応じてくれません。でも、なぜなのかわからなかったのです。(略)
彼らは一貫性のない人間には絶対に近づきません。相手が、表裏のある人か、感情の波が激しい人か、自分にとってどういう存在か、を見ています。関係がないと思うと知らん顔をする。
引用:自立2章p56
それが誤解されて「自閉症の人は人を嫌う」と言う人がいます。それは彼らの力を見抜けなかった人の言い分です。
本の中では、自閉症の人が、人の気持ちを見抜いているという箇所がいくつか書かれています。
私もその通りだと思っていますし、他のお母さん方も同じ意見の人が多い。それだけ感性が鋭い人たちなのだと思います。
あるデイでベテランのスタッフのAさん、対応はいいし熱意もあるのだけれど、言葉の端々にトゲのようなものを感じていました。恐らく本人も気付いていない差別意識があるのだろうと思います。娘はAさんがお迎えの時は、今まで楽しそうにしていたのに、急にテンションが下がって車に乗って行くのが分かりました。他のお母さんに言うと「うちの子もAさん嫌いだわ」と。
こういう経験は1度や2度ではないので、やはり自閉症の人は人を見る目があると思っています。
そして私自身の娘に対する対応を気を付けるようになりました。
まとめ
今回は篁先生の本を紹介しました。いかがだったでしょうか?
はじめて読んだとき、私が自閉症をよく分かっていなかったので、いくつか当てはまるなぁくらいでした。しかし読んだ後に、文字を練習させると書けるようになったり、睡眠と体温のことだったり、当てはまることが沢山出てきてからは何度か読み返して実践するようになりました。
今回この記事を書くに辺り、何度も読み返してみました。やはり、これほど具体的に書かれている本はないと思っています。
ここで紹介しきれなかったことも沢山書かれているので、興味がある方は是非読んでみてください(*‘∀‘)