障害児の親が思う【成年後見制度】問題点と対策

認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が十分でない方を保護するために成年後見制度があります。特に知的障害がある子の親にとって、成年後見制度の問題は気になるところだと思います。

成年後見制度は、2000年に介護保険と同時に作られた制度のため主に認知症の高齢者を対象としています。特に若い障害者が使うには使い勝手が悪く月々のお金もかかるので、親が高齢になるまで使わない人がほとんどのようです。

そしてその使い勝手の悪さは、高齢の認知症の親を持つ家族にとっても同じことなのです。そのため現在、成年後見制度は見直される方向になっています。2026年後くらいには大きく変わるかも知れません。(2022年現在)

今回は障害者の親が思う成年後見制度の問題点と対策について紹介します。

この記事はこのような方におススメです。
・成年後見制度について知りたい
・法定後見はいくらお金がかかるのか
・成年後見制度の見直しとは
・なにかできる対策はあるか

制度を知っている方は問題点以下まで飛んでください。

目次

現在の成年後見制度(2022年現在)

成年後見制度は2000年4月に「介護保険制度」と同時に高齢者を支える制度としてスタートしました。高齢者を対象とした制度に障害者も組み込まれた形となります。

実際に令和3年度の資料(成年後見関係事件の概況)のP7「開始原因割合」によりますと
認知症67.3% 知的障害9.6% 統合失調症9.1% 高次脳機能障害4.4% 遅延性意識障害0.8% その他12.4%と ほとんどが高齢の認知症の方が利用しているといえます。

成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。

参考と引用資料

今回この記事を書くにあたり、間違いがないように法務省や裁判所のホームページから抜粋しました。難しいですが、なるべく分かりやすく紹介していきます。詳しく知りたい方はご自身で確認していただくか、法律の専門家にお問い合わせをお願いします。

1)法務省 成年後見制度・成年後見登記制度

2)最高裁判所 成年後見関係事件の概況

3)よくある質問 東京家庭裁判所後見センター

4)厚生労働省 成年後見はやわかり

5)公証人連合会 任意後見契約

法定後見制度とは

家庭裁判所が個々の事案に応じて成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)を選任し、その権限も基本的に法律で定められているものです。

概要

本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度。本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの制度が用意されています。

後見判断能力が欠けているのが通常の状態の方
保佐判断能力が著しく不十分な方
補助判断能力が不十分な方

後見人の役割は「財産管理」と「身上監護」の2つです。

1)財産管理
・現金や預貯金・金融資産の管理
・不動産の管理・売却
・確定申告や納税
・不適切な契約の取り消し など

2)身上監護 生活療養看護に関する事務処理
・入退院等に関する契約
・住居の確保(賃貸契約)
・施設などの入退所手続き
・介護・保険・福祉サービスに関連する必要な申請と契約
・教育・リハビリに関する契約 など

身上監護は「生活療養看護に関する事務処理」をするのであって、事実行為としての介護は含まれていません。ただし法律行為を行うために必要となる事実行為(施設入所の際の施設の調査・選定、契約の履行状況の確認など)については、行う必要があります。

なので実際の介護行為や病院等の付き添い・入院の準備等の行為はできません。それはヘルパーさんなどのお仕事で、そのサービスの契約をするのが後見人のお仕事です。

引用:後見人の職務の内容(地域後見推進プロジェクト
参考:後見人の役割・仕事(東京大阪相続相談所
参考:後見制度は事実行為を後見人の役割と位置づけてはいない(山形県手をつなぐ育成会

申立手続

家庭裁判所に後見等の開始の申立てを行う必要がある。

申立理由

裁判資料によると、後見人をスタートさせた理由は以下のものです。

預貯金の管理・解約32.9%
身上保護24.4%
介護保険契約13.6%
不動産の処分11.6%
相続手続8.3%
保険金受取5.1%
訴訟手続1.9%
その他2.3%
令和3年1月~12月まで

つまり、預貯金の管理や介護保険契約・不動産処分・相続手続・保険金受取の手続が必要になった時に、金融機関や法律家、保険会社に「後見人つけてください」と言われるということですね。

申立費用 

申立てにかかる費用・後見人等の報酬について(最高裁

成年後見人の費用は?(相続弁護士ナビ

法定後見の手続き

家庭裁判所によって違う可能性がありますので、事前に確認してください。今回はざっと書いていきます。

①診断書の取得:診断書の内容により「後見」「保佐」「補助」か裁判所が判断する。

②必要書類を集める
・申立書類:後見開始申立書・申立事情説明書・親族関係図・後見人候補者事情説明書・財産目録・相続財産目録・収支予定表 など
・本人に関する資料:・身体障がい者手帳・精神状態手帳など健康状態がわかる資料・年金額決定通知書・給与明細など収入がわかる資料・納税通知書や国民健康保険料の決定通知書などの支出がわかる資料・不動産についての資料・預貯金や株式などの資料・生命保険などの資料・負債についての資料・遺産についての資料 など
・本人の戸籍謄本※
・本人と後見人候補者の住民票又は戸籍附票※
・本人が後見登記されていないことの証明書※
・療育手帳の写し
※3カ月以内のもの

③申立書類の作成

④家庭裁判所へ申立

⑤審理:申立人や後見候補者の面接、本人との面接、親族への意向照会、医師による鑑定など

⑥審判:「補助」「保佐」「後見」のうちどの類型にするか、後見人候補者のうち後見人に最適な人物は誰かなどを裁判所が判断します。なお、本人の状況を総合考慮して、成年後見人等を監督・指導する成年後見監督人が選ばれることもあります。

⑦後見登記:確定すると、後見の登記をするために、裁判所から東京法務局にその旨が登記されます。

引用:成年後見人をわかりやすく解説!(相続弁護ナビ

引用:手続の流れ・概要 東京家庭裁判所後見センター(裁判所

申立てができる人

本人,配偶者,四親等内の親族,検察官,市町村長など

保佐本人以外の方の申立てで、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要
補助補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も本人の同意が必要

後見は同意がいらないのですね

成年後見人等の権限

代理権同意権取消権

法定後見の場合は「代理権」「同意権」「取消権」が与えられています。ただし「日用品の購入など日常生活に関する行為」は除かれます

後見人

 後見人は、本人の日常生活に関する行為を除き、すべての法律行為に関して代理権をもちます
 この制度を利用すると本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人または成年後見人が、本人がした不利益な法律行為を後から取り消すことができます

保佐人

 保佐人は、一定の保佐人の同意を得ることを要する行為」について同意権をもちます。保佐人の同意を得ないでした行為については、本人または保佐人が後から取り消すことができます。
 また家庭裁判所の審判によって、保佐人の同意権・取消権の範囲を広げたり、特定の法律行為について保佐人に代理権を与えることもできます。代理権を与えることには本人の同意が必要で、この申し立ては保佐開始の審判申立とは別のものです。

※「保佐人の同意を得ることを要する行為」とは、借金,訴訟行為,相続の承認・放棄,新築・改築・増築などの行為(民法13条1項)が挙げられています。

補助人

 補助人は、特定の法律行為について同意権・取消権や代理権を与えられます。
 補助人に同意権や代理権を与えるためには、自己決定の尊重の観点から、当事者が同意権や代理権による保護が必要な行為の範囲を特定して、審判の申立てをしなければなりません。この申立ては、補助開始の審判とは別のものです。
 なお補助に関するこれらの審判は、本人自らが申し立てるか、本人が同意している必要があります。

参考:代理権と同意権について(となみ野後見福祉会

監督人の選任

必要に応じて家庭裁判所の判断で選任される(後見監督人・保佐監督人・補助監督人)

後見人等に選ばれる人

成年後見人等は家庭裁判所が選任することになります。本人の親族以外にも、法律・福祉の専門家その他の第三者や、福祉関係の公益法人その他の法人が選ばれる場合があります。成年後見人等を複数選ぶことも可能です。また、成年後見人等を監督する成年後見監督人などが選ばれることもあります。

なお申立時に特定の人を希望していても、家庭裁判所が希望どおりの人を成年後見人等に選任するとは限りません。希望に沿わない人が成年後見人等に選任された場合であっても、そのことを理由に後見開始等の審判に対して不服申立てをすることはできませんのでご注意ください

親族が必ず選ばれるとは限りません

裁判所の資料によると「後見人等と本人の関係」は、近年は親族以外の後見人が全体の80%を占めます。

後見人2000年2021年
親族90%以上19.8%
親族以外10%以下80.2%
平成12年4月から平成13年3月まで(PDF:515KB)の9資料10の12P
令和3年1月から12月まで(PDF:788KB)の8-1資料10-1の10P

親族は後見人になれないのか

先程の資料では申立時に
親族が候補者として記載されているが全体の23.9%
その内19.8%が選ばれているそうです。ということは、4.1%が選ばれていないということです。

この親族が選ばれない理由というのは よくある質問のQ58・Q59によると

Q58 後見人等には,必ず候補者が選任されるのですか。

家庭裁判所では,申立書に記載された後見人等の候補者が適任であるかどうかを審理します。その結果,候補者が選任されない場合があります。本人が必要とする支援の内容などによっては,候補者以外の方(弁護士,司法書士,社会福祉士等の専門職や法律または福祉に関する法人など)を後見人等に選任することがあります。
なお,後見人等の選任に関する判断については,不服の申立てはできません
また,次の人は後見人等になることができません。
(欠格事由)
(1) 未成年者
(2) 後見人等を解任された人
(3) 過去に破産手続開始決定を受けたが,免責許可決定を受けていない人
(4) 現在,本人との間で訴訟をしている人,その配偶者または親子
(5) 本人に対して訴訟をしたことがある人,その配偶者または親子
(6)行方不明である人

Q59 後見人等に候補者以外の方が選任されたり,監督人が選任されたりするのはどのような場合ですか。

次のいずれかに該当する場合は,候補者以外の方を後見人等に選任したり,監督人を選任する可能性があります。
(1) 親族間に意見の対立がある場合
(2) 財産の額や種類が多い場合
(3) 不動産の売買や生命保険金の受領が予定されているなど,申立ての動機となった課題が重要な法律行為を含んでいる場合
(4) 遺産分割協議など,後見人等候補者と本人との間で利益相反する行為について,監督人に本人の代理をしてもらう必要がある場合
(5) 後見人等候補者と本人との間に高額な貸借や立替金があり,その清算の可否等について第三者による調査,確認を要すると判断された場合
(6) 従前,後見人等候補者と本人との関係が疎遠であった場合
(7) 年間の収入額及び支出額が過大であったり,年によって収支に大きな変動が見込まれるなど,第三者による収支の管理を要すると判断された場合
(8) 後見人等候補者と本人との生活費等が十分に分離されていない場合
(9) 申立時に提出された財産目録や収支予定表の記載が十分でないことなど,後見人等としての適格性を見極める必要があると判断された場合
(10) 後見人等候補者が後見事務に自信がなかったり,相談できる者を希望した場合
(11) 後見人等候補者が自己もしくは自己の親族のために本人の財産を利用(担保提供を含む。)し,または利用する予定がある場合
(12) 後見人等候補者が,本人の財産の運用(投資等)を目的として申し立てている場合
(13) 後見人等候補者が健康上の問題や多忙などで適正な後見等の事務を行えない,または行うことが難しいと判断された場合
(14) 本人について,訴訟・調停・債務整理等,法的手続を予定している場合
(15) 本人の財産状況が不明確であり,専門職による調査を要すると判断された場合
* 上記(1)から(15)までに該当しない場合でも,家庭裁判所の判断により候補者以外の方を後見人等に選任したり,候補者を後見人等に選任した上で監督人を選任したりする場合があります。

まとめると
・親族間の争いがある
・財産の額が多い
・不動産売却・保険金受取の予定がある
・遺産分割協議がある
・高額なお金の貸し借りがある
・疎遠であった
・収入・支出額が大きい
・本人と候補者の生活費が分かれていない
・提出された書類が不十分
・候補者が自信がない
・候補者が自分のために財産を利用しようとしている
・候補者の健康上の問題・多忙
・本人に法的手続の予定がある
・本人の財産が不明確
以上の人、場合は親族でも後見人はなれませんということです。
※この理由に該当しなくても後見人になれない場合がある。

市民後見人とは

市民後見人という方たちが、研修を受けて後見人として活動をされています。

 市民後見人とは、弁護士や司法書士などの資格をもたない、親族以外の市民による成年後見人等であり、市町村等の支援をうけて後見業務を適正に担います。
 主な業務は、ひとりで決めることに不安のある方の金銭管理、介護・福祉サービスの利用援助の支援などです。

 市町村等の研修を修了し、必要な知識・技術、社会規範、倫理性を身につけ、登録後、家庭裁判所からの選任を受けてから、成年後見人等としての活動が始まります。

現在、約1/4の市町村が市民後見人の育成・活動支援に取り組んでいます。

引用:厚生労働省 市民後見人について

後見人のなり手が少ないのでしょう

任意後見制度とは

本人が任意後見人となる方やその権限自分で決めることができるものです。

概要

本人が十分な判断能力がある時に,あらかじめ,任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活,療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度。

申立手続

  1. 本人と任意後見人となる方との間で、本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務について任意後見人に代理権を与える内容の契約(任意後見契約)を締結
    この契約は,公証人が作成する公正証書により締結することが必要
  2. 本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任の申立てを行う。

申立てができる人

本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人となる方
※本人以外の方の申立てにより任意後見監督人の選任の審判をするには、本人の同意が必要です。ただし、本人が意思を表示することができないときは必要ありません

任意後見人の権限

代理権取消権同意権

任意後見契約で定めた範囲内で代理することができるが、本人が締結した契約を取り消すことはできない

本人が行った契約を解除させたいとき

では任意後見人は何もできないのでしょうか。

任意後見契約書に「紛争処理についての代理権」が与えられている場合、任意後見人でも本人の代理人として業者と交渉を行い、あるいは訴訟で解決を図ること可能です。

引用:任意後見制度では取消権がない(大阪成年後見申立センター

監督人の選任

 必ず付きます。監督人は、家庭裁判所によって選任されます。
 その役割等から本人の親族等ではなく、第三者(弁護士,司法書士,社会福祉士等の専門職や法律,福祉に関わる法人など)が選ばれることが多くなっています。
 なお任意後見人となる方や、その近い親族等は任意後見監督人にはなれません。

 「監督人」の役割は、任意後見人が任意後見契約の内容どおり適正に仕事をしているかを、任意後見人から財産目録などを提出させるなどして監督することです。
 また本人と任意後見人の利益が相反する法律行為を行うときに、任意後見監督人が本人を代理します。任意後見監督人はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。

利益相反とは、後見人にとっては利益になるが、被後見人にとっては不利益となる行為のこと。
例えば子供が未成年の内に、父親が亡くなった場合、共同相続人は母親と子供となりますが、母と子は利益相反関係になるため、子には特別代理人が選任されます。

後見人ができないこと

後見人ができることは「財産管理と身上監護」だけです。何でもできるわけではないのです。

1)日常生活に関する行為の同意や取消

さきほど成年後見人等の権限のところでも書きましたが、日用品の購入などは同意や取消ができません。

2)事実行為

 事実行為とは、法律行為ではない身の回りの世話のことを指します。これらの必要性が生じた際に、介護保険やその他の制度を契約したりするのは後見人ですが、実際の世話はヘルパーさんなどの仕事になります。

ご本人の手を引いてセンターまで一緒に行くこと自体は、法的な効果を生むものではないため「事実行為」と判断されます。また、ご本人の買い物に付き合うことや、料理を作ってあげることなどは、いずれも「事実行為」となります。

引用:市民後見センターきょうと こんなことも知りたいQ&A

こんな意見もありました。

 実際の事実行為を提供するのは、社会福祉をはじめとした制度、サービスや社会福祉士等専門職やボランティアといった社会資源である。

 それらが不足していることにより、本人の周りで本人のことをよく知っている者が事実上、後見人しかいなくなる。そのため、後見人が代行をせざるを得ない状況があることは否めない。
 後見活動というのは、金銭管理といった法律行為というより、日常生活上の身上監護の方が比重が重い。本人の意思尊重からもきめ細かな支援ができるようにすることである。こうした理想的な体制をつくりあげられるようにしたい。  

引用:後見人が事実行為を代行(山形県手をつなぐ育成会

実際は制度やサービスが不足しているのでしょうね

3)医療行為への同意

医療行為は本人にのみ許された固有の権利の為、後見人には同意権が認められていません。これはゆゆしき問題です。もし親戚がいなく、身寄りがなくなった高齢の障害者はどうなってしまうのでしょうか。

何が問題かというと
①医療行為の同意
医療行為はリスクをともなう行為のため本人の同意が必要です。本人に判断能力がない場合、親族が同意することが可能ですが、親族がいなかった場合はどうなるのでしょうか。
②延命治療
これも医療行為にあたるので、本人が延命治療を望んでいなかった場合は、親族がいなければ延々と延命治療がされることになってしまいます。
③本人の死亡
本人が死亡した瞬間に、後見人は法律上の権限を失います。その場合火葬や納骨などの手続は後見人ではできません。※死後事務委任契約を別に結んでおく必要があります。

このことは専門家の方たちも問題意識を持たれています。

医療行為の同意は命にかかわることなので、早急な法律の改正を望みます!

4)身元保証人、引受人、入院保証人等

本人の行為に関する責任を連帯する保証人などに就任する義務はありません。しかし実際には親族がいない場合、医療機関や社会福祉施設などから入院・入所の際に身元保証人を求められることがあるそうです。

かなり後見人の方に負担がのしかかっていますね。これも別のサービスがあるのでしょうか。

5)居住する場所の指定

どこに住むかの選択は本人にあり、勝手に居住する場所を指定したり、施設へ入所させることはできません。本人の同意を前提としていて緊急の場合や、本人の判断能力の状況によっては、この限りではありません。

6)本人の居住用不動産の処分

居住用の不動産の処分・売却は、家庭裁判所の許可が必要です。

7)身分に関する行為

遺言・結婚・離婚・養子縁組・子の認知などは本人の意思が尊重されるべきことなので代理権はありません。
問題は、だまされそうになっている場合ではないでしょうか。

Q109 父について後見が開始しましたが,その父が悪い人にだまされて婚姻したり,養子縁組をしたりしようとしています。後見人が父の代理人として婚姻や養子縁組の手続を止めることはできますか。

婚姻や養子縁組などの身分の取得・形成に関する行為について,後見人には代理権がありませんので,手続を止めることはできません。必要があれば,専門家にご相談ください。

障害者の親が思う問題点

途中でやめることができない

成年後見制度は判断能力が不十分な本人の権利を保護するための制度ですので、本人の判断能力が回復したと認められる場合でない限り(障害なので回復しません)、制度の利用を途中でやめることはできません(死ぬまでです)。申し立てると途中で取り下げもできません。

Q18 申立人が推薦した後見人等候補者以外の方が後見人等に選任されたり,監督人が選任されたりすることに不満があるため,申立てを取り下げたいのですが,可能ですか。

取下げについては家庭裁判所の許可が必要となりますが,後見人等の選任に関する不満を理由とした取下げは,本人の利益に配慮して,許可されない可能性が高いと考えられます。なお,審判後は,申立ての取下げはできません。

後見人を変えることは難しい

希望に沿わない人が成年後見人等に選任された場合であっても、そのことを理由に後見開始等の審判に対して不服申立てをすることはできませんのでご注意ください。

この後見制度は性善説によって成り立っています。ほどんとの後見人の方は善意で支援してくださる素晴らしい方と信じています。しかし一部ひどい後見人が付いてしまうことがあり、その人が付いてしまうと中々変えることはできないのです。

そのひどい現状と対策が書かれている本があります。

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高齢者よりも障害者が、長い期間利用し、長い期間お金を払う

後見人への報酬はいくらかご存知でしょうか?たまに無料と誤解している方がいますが違います。

後見人・監督人への報酬

基本報酬:裁判所から提示されている目安があります。管理財産によって変わってきます。

後見人等基本報酬
管理財産月額年間
1千万円以下2万円24万円
1千-5千万円3-4万円36万-48万円
5千万円以上5-6万円60万-72万円
監督人
管理財産月額
5千万円以下1-2万円12万-24万円
5千万円以上2万5千円-
3万円
30万-36万円

付加報酬:さらに身上監護などで特別困難な事情があった場合、基本報酬の50%の範囲内で報酬の上乗せが可能。
 また訴訟、遺産分割、不動産の任意売却などの特別な行為を行った場合には、その内容に応じて相当額(40 ~ 150 万円程度)が支払うことになっています。

参考:成年後見人の報酬の目安は?(ファミトラ


引用:後見人等の報酬はどれくらいかかる?(第二東京弁護士会

必要経費:交通費・通信費・各種証明書発行手数料などの実費もかかります。

どれくらいの期間いくら払うのか

はじめに成年後見制度は認知症の高齢者を対象にして「介護保険」当時にスタートしたとお伝えしました。障害者と高齢者は同じ制度を使う上での「違い」はなんでしょうか?考えられる想定を出してみました。


一番安い費用で想定してみました。

想定条件法定後見任意後見
管理財産1000万以下1000万以下
報酬額2万円1万円
利用期間法定後見任意後見
10年240万円120万円
20年480万円240万円
30年720万円360万円
40年960万円480万円
50年1200万円600万円
60年1440万円720万円
管理財産1000万以下の場合
任意後見は監督人報酬のみ1万円の場合

想定条件
・裁判所の資料では年齢割合は70代80代が半数以上占めてるので、認知症の高齢者が70歳で利用すると仮定。
・障害者に関しては両親のどちらかが亡くなったり、親が健康に自信がなくなってきた時がスタートだと思われるので「親70代ー子40代」でスタートと仮定しました。
亡くなる年齢を80歳と仮定。
法定後見の場合で、高齢者が10年、障害者が40年利用するとして最低金額の年間24万円で計算

高齢者障害者
元の資産あるない
利用開始年齢70歳~40歳~
利用期間10年間40年間
支払額240万円以上960万円以上
法定後見 最低額月2万円で計算

最低限でも900万円以上とは。障害者が使ってよい制度なのでしょうか。。。

障害者は元の資産がない

先程の表でも示した通り、認知症の高齢者は働いていた期間があるため資産がある人が多いと思います。しかし作業所など福祉就労で働く障害者はどうでしょうか。工賃は月1万円程度が多い中、その工賃も給食代などの利用料に消えてしまいます。

また、障害年金の受給対象になったとしても障害基礎年金は月額にすると、障害等級2級の人は月64,816円1級の人は月81,020円です(2022年現在)。1級の人はまだしも2級の人はかなり厳しいです。

娯楽や余暇に使える文化的な生活はできないと言えそうです。

親が加入者となり月々払うことで親亡き後2万円が生涯もらえる年金制度があります⇩

子供にお金を残したくても財産額によって報酬が上がる

こどもが心配で、小さい頃からたくさんお金を貯めている方もいると思います。実際そういう話も聞きます。後見人の報酬のところでも書きましたが、お金を残せば残すほど、後見人への報酬額は上がってしまうのです。

Q146 報酬が高額で納得できません。この金額になる理由を教えてください。

後見人等の報酬額は,家庭裁判所の裁量判断事項であり,報酬付与審判に対しては即時抗告の申立てもできないので,報酬額の具体的理由についてはお話ししていません

お金がどのように使われているか家族には知らされない

何故かは理解できませんが、お金がどのうように使われているのかは家族に知らされません。

Q26 後見人に母の財産目録を見せるよう頼んでいますが,見せてくれません。本人の家族にすら見せられないという法的根拠を教えてください。

後見人には,本人の家族に財産を開示しなければならない法律上の義務はありません。

ちょっと考えられませんね

本人のためにお金を使いたくても使えない

本人が楽しみにしている旅行・余暇・趣味などにお金を使いたいと思っても、後見人の理解が得られなければ使うことはできません。

何のために生きているのでしょうか

後見人ができないことは誰がやるのか

先程も書いた後見人ができないことは、それを担ってくれる方が必要です。高齢となった障害者に親族がいない場合、いても交流がない場合は、誰が行ってくれるのでしょうか。

福祉サービスのヘルパーさんを。ということでしたが、人手不足の福祉業界ではそれも十分ではないはずです。

特に医療行為の同意は命にかかわることなので、早急に法改正を望みます。

参考:山形県手をつなぐ育成会「親なき後」における医療同意権問題

市区村長が申立人になれる

本人の権利を擁護するために市区村長が申立人になれます。その場合必ずしも親族の同意書は必要ないそうです。

成年後見関係事件の概況の令和3年度P4によりますと、申立人と本人との関係について全体を%で表すと以下のようになっていて、市区村長申立が最も多く年々増えてきているようです。

市区町村長23.3%
本人の子20.9%
本人20.8%

親族がいない居ても遠方にいる、あるいは申し立てることを拒否する、等の場合、本人が居住する地域の首長(市区町村長)が制度利用を申し立てることができます。これを成年後見制度の首長申し立てといいます。(老人福祉法第32条、知的障害者福祉法第28条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51条の11の2)

引用:早稲田成年後見サポートセンター 首長申立て
Q22 後見人と名乗る方が来て,私が管理している母の通帳を引き渡すように言われました。私は母に頼まれて十何年間も管理してきましたが,後見人に引き渡さなければならないのですか。

後見人には正当な権限がありますので引き渡してください。なお,後見人の身分については,登記事項証明書等で確認してください。

JICさんのセミナーを受けた時に聞いた話ですが、
ある日、認知症のお母さんがデイサービスから帰宅しないため、デイサービスに連絡したところ、親族に連絡もなしに後見人がついて、その後見人がお母さんを施設に入れてしまったという事例があったそうです。

本当に困っている人のためには必要な措置だと思いますが。。。家族に連絡もしないとは。


成年後見制度の問題点について、こちらのサイトでもお話されていました。お母さんたちの意見もとても勉強になるのでご覧になってみてください。

後見人が生活保護の申請をできるようになりました

2021年10月から本人が生活保護の申請ができない場合は、後見人が申請をすることができるようになりました。できるようになりましたって、できなかったのか?!と思いますが(その市区町村によるのかも知れませんが)できなかったようなのです。

2021年10月以前は後見人でさえ申請できなかったそうです。経緯はこちら⇩

 以前は「代理人による生活保護申請はなじまない」とされていたそうです。(厚労省2009年3月生活保護問答による)これに対し同年、日本弁護士連合会から反対意見が表明されています。

 「今後、全国各地の実施機関において、弁護士による代理申請を受付けない、あるいは弁護士を申請者の代理人として認めないとの対応がなされる可能性がある。しかし、上記のような見解は不当であり、当会は到底これを容認することはできない。厚生労働省は、直ちに問答集における上記見解を削除すべきである。」(引用:奈良弁護士会 生活保護申請の代理に関する会長声明

 日本弁護士連合会が抗議の意見書を提出。2009.6.18
「代理人による生活保護申請はなじまない」とする厚生労働省の新設問答の削除を求める意見書


 2021年9月15日に開催された厚労省の「成年後見制度利用促進専門家会議第2回運用改善」により改定されることになりました(参考資料4:生活保護問答集についての一部改正について)

参考資料4を要約すると
生活保護の申請は本人申請が原則で代理人申請はなじまないけど、成年被後見人は「事理を弁識する能力を欠く常況にある」し、申請の判断能力がないし、後見人の代理権には「財産に関するすべての法律行為」とあるのだから保護申請も含まれると解釈できる。だけど本人の同意があることが望ましい。

2009年から2021年まで12年も経ってから改定されるなんて、ひどい話です。

これにより10月1日以降、成年後見人の生活保護の申請が可能になりました。

【注意】本人の同意があることが望ましいと書かれていることと保佐人・補助人は代理申請できません

生活保護の制度の趣旨は、生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障する(憲法25条生存権)とともに、自立を助長することを目的としています。

引用:厚生労働省 生活保護制度

そもそも憲法で保障されているはずです。

2026年見直し案

2026年に成年後見制度の見直しが行われるようです。

2022年5月18日第13回成年後見制度利用促進専門家会議資料2-2のP15によりますと下記の見直しを検討しているそうです。

見直しに関する主な論点

  1. 成年後見制度のスポット利用の可否 

    他の支援による対応の可能性も踏まえて本人にとって適切な時機必要な範囲・期間で利用できるようにすべき
  2. 成年後見制度の3類型の在り方

    成年後見制度の3類型(後見・保佐・補助)を廃止して、事案に応じて権限を付与すべき
  3. 成年後見人の柔軟な交代

    本人が必要とする身上保護や意思決定支援の内容やその変化に応じ、後見人等を円滑に交代できるようにすべき
  4. 成年後見人の報酬の在り方

    後見人等の報酬の決定についてできるだけ予測可能性の高い制度にすべき
  5. 任意後見制度の在り方

    任意後見制度の利用が低調であるため、同制度の利用を促進する方策を検討すべき
    本人の判断能力が低下しているのに、適切な時期に任意後見監督人の選任申立てがされていない

今後に期待しましょう

日本記者クラブ会見

政府の成年後見利用促進専門家会議の委員である山野目教授の日本記者クラブの会見の様子です。
成年後見制度の改革についてお話されています。
見てみようと思う方は、時間が長いので再生速度を上げて見ることをおすすめします。

対策

成年後見制度が障害者にとっても後見人にとっても使い勝手の悪い制度だと理解していていただけたと思います。ではどうしたらいいのか。

ここからは私の個人的な考えです。

改正を待つ

見直し案の法律が改正されてもすぐに施行させないかもしれませんが、現在(2022年)こどもが小さい場合は改正を待ってみるのもいいと思います。もしかしたらスポット的な一時利用の使いやすい成年後見制度になるかも知れません。

現在中高生は親権がある内に対策を考えてみる

任意後見契約について日本公証人連合会のホームページにはこのように書かれています。

Q 5. 意思能力が欠ける未成年者の子を持つ親が、子に代わって、自らを任意後見受任者とする任意後見契約を結ぶことは可能でしょうか?

   家庭裁判所において特別代理人の選任を受けた上で、受任者とならない親権者の片方と特別代理人とが共同で未成年者を代理し、受任者となる親権者との間で、任意後見契約を結ぶことができます。ただし、法律上、本人が未成年の間は、任意後見監督人を選任しないこととされていますので、契約の効力を生じさせることができるのは、本人が成年に達した日以降となります。

2022年4月から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。そして親権も18歳までになったのです。親がこどもの代わりにできる契約や手続きが18歳までとなったのです(本人に判断能力がない場合)。

親権がある内にこどもとの間に任意後見契約を結ぶという方法があります。これはお金がかかる対策ですが一度考えてみる価値はあると思います。我が家も公証役場で任意後見契約(親心後見)を結びました(以下親心後見を見てください)。

・もしかしたら、改正後は必要なくなるかも知れません
・またそれぞれの家庭の事情障害の程度によっても対策が違います
・やってみようと考えている方は是非専門家に相談をしてください。
・私は責任を取れません。あくまで自己責任でお願いします

親心後見について

「親心後見」とは、親権を使ってこどもと任意後見契約を結ぶものです。ポイントは3つです。

  1. 「親」が子の後見人になれる
  2. 後見の開始時期は「親」が決められる(成人後すぐでなくていい)
  3. 親亡き後の次の後見人も「親」が契約できる

ダウン症のお子さんをもつ鹿内さんが、娘さんの将来を考えている時に、日本公証人連合会のホームページOLD版を見たことがはじまりなのだそうです。

自分が死んだ後、障害を持つ子供のことが気がかりですが、それに備える方法はないでしょうか?

まず、心配な子のために、然るべく遺言をしておいてあげることが、最低限必要と思われます。
( 省略 )
その子に契約締結能力がない場合(知的障害の程度が重い場合等)には、同じく信頼できる人を見つけて、その人との間で、子が未成年であれば親が親権に基づいて、親が子を代理して任意後見契約を締結しておくことができると考えられます。また、その人と親自身との間で、親が死んだり体力が衰えたりした後の、その子の介護及び財産管理等について委任する契約をしておくことも考えられる方法のひとつです。

日本記者クラブで2022年3月18日に記者会見が行われました。
日本相続知財センター本部専務理事の鹿内幸四朗さんと司法書士の杉谷範子さんの会見です。

詳しくは無料セミナーに参加してみてください。オンラインもあります。定期的に開催されています。
お金のかからない対策お金をかけるべき対策が紹介されています。

専門家に相談せずにご自身でやられる場合も注意点がいくつかあるので本を読むことをおすすめします。

成人後であってもできる対策も紹介されています。

初回無料の相談もあります。

まとめ

今回は障害者の親が思う【成年後見制度】問題点について紹介しました。

本当なら障害者のための後見制度ができてほしいと願っています。
今後人口が減っていく日本で、福祉職についてくれるヘルパーさんも減ってくると思います。こどもたちの将来はどうなっていくのでしょうか。死んでも死に切れません。

今後も情報を集めつつ、自分のこどもにあった対策をやっていくしかないですね。

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